栄養学雑誌
Online ISSN : 1883-7921
Print ISSN : 0021-5147
ISSN-L : 0021-5147
高齢男性に対する実物大料理カードを用いた栄養教育の有効性に関する研究
松下 佳代足立 己幸
著者情報
ジャーナル フリー

2000 年 58 巻 3 号 p. 109-124

詳細
抄録

高齢男性が, 健康でQOLの高い食生活を営む力を形成することをねらいとして, 著者らが開発した導入段階に実物大料理カードを用いた栄養教育プログラムの有効性を, 従来から行われている調理実習を中心とした栄養教育プログラムとの比較で検討した。具体的には, 食知識・食態度・食行動の変化からみた学習効果, 並びに食知識や食態度が食行動へ至る構造からみた学習効果を評価し, 以下の結果を得た。
1) 介入前の食知識・食態度・食行動は, いずれも両群間に有意な差はみられず, 共通して次の傾向がみられた。食知識は, 料理レベル, 食材料レベル, 栄養素レベルでも正解者が少なかった。食行動の意図及び食行動のSEは, 食事を食べる面や食生活を営む力を形成したり伝承する面に比べ, 食事をつくる面で得点が低かった。また, 食卓づくりでは, 食事の準備や後片づけに関する項目 (箸を並べる, ごみの後始末など) に比べ, 食事づくりに直接かかわりのある項目 (献立を立てる, 調理をする) で得点が低かった。更に, 食行動の意図及び食行動のSEに比べ, 食行動の得点は有意に低く, この傾向は食事をつくる面で顕著だった。
2) 食知識・食態度・食行動の変化は, カード群は調理群に比べ, いずれの項目でも有意に得点が高かった。つまり, 食知識は各レベルの全てで, 食行動の意図, 食行動のSE及び食行動では, 介入前に得点の低かった食事を食べる面の得点が有意に高くなった。また, 継時的変化をみると, 食知識は第1回介入後に急激に上昇し, 介入1か月後もその状態を維持していた。食行動のSEは緩やかに上昇し, その後, 食行動も上昇し始めた。
3) 介入後の食知識・食態度・食行動のパスダイアグラムを求めた結果, カード群は食行動に至る多様なコースをもつことが明らかになった。すなわち, 料理レベルの知識が食事観, 並びに食行動のSEの各々に影響を及ぼし, 食行動を促す2つのコース, 料理レベルの知識, 食事観, 食行動のSEのそれぞれを経て食行動を促すコース, そして食卓づくりが直接食行動を促すコースの計4コースが確認された。一方, 調理群は, 料理レベルの知識が食行動のSE, 食行動の意図に影響し, 食行動を促す1コースにとどまった。
以上の結果から, カードプログラムは, 調理プログラムに比べ, 食知識・食態度・食行動の各変化からみた学習効果が高く, かつ食行動につながる多様なコースが認められ, 学習効果を高める可能性が示唆された。

著者関連情報
© 特定非営利活動法人日本栄養改善学会
前の記事 次の記事
feedback
Top