医療と社会
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特集論文
わが国における報告制度の変遷と外部報告制度の今後の課題
木村 眞子
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2006 年 16 巻 1 号 p. 17-32

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抄録

 安全管理を行うにあたり,最初に行わなければならないのはまずどこに危険が潜んでいるかを明らかにすることである。今日,このrisk identificationのために最も一般的なのは,医療事故やニア・ミス事例に関する報告制度であろう。本稿では,2000年以降にわが国で急速に制度整備が進められた医療機関内,並びに外部報告制度の変遷と報告制度が医療機関や周辺環境に及ぼした影響を概観したうえで,外部報告制度の今後の課題について検討した。報告制度の歩みは,わが国における医療安全の取り組みの進展と大きく重なっている。わが国では,制度開始当初に体系的に情報の収集・分析を行う体制が整っていた医療機関はごく一部であったが,2000年以降,医療安全を目的とした報告制度は広く国内の医療機関で取り入れられ,また外部報告制度の整備も進められてきた。わが国の外部報告制度は,当初からリスク・マネジメントでなく医療安全のために,組織を超えた学習の場となることを目指して設計されてきた。しかし,社会の制度に対する認識や外部の制度と医療機関の内部体制の整備との間にはギャップが存在している。こうした問題を解決しなければ,外部報告制度において質のよい情報を得ることは望めない。今後は,こうした組織内部の状況も視野に入れた上で,医療安全に対する社会全体のコミットメントの確保や制度の改善を検討する必要がある。

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© 2006 公益財団法人 医療科学研究所
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