日本耳鼻咽喉科学会会報
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ヒト蝸牛血管条の糖尿病性変化
PAS染色をした側頭骨標本での検討
富澤 秀雄
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2000 年 103 巻 11 号 p. 1227-1237

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抄録

糖尿病では老人性難聴に似た聴力像の感音性難聴をきたす.糖尿病性腎症をはじめ種々の糖尿病合併症の発生に糖尿病性細小血管障害が関与をしている.今回ヒト側頭骨標本をPAS染色し糖尿病群(16例27耳)と非糖尿病群(16例23耳)とで蝸牛血管条の毛網血管外径•毛細血管基底膜の平均の厚さ•血管条萎縮率を比較し,これらの値が年齢や糖尿病罹病期間•空腹時血糖値•HbAlc値との間で相関があるかについて検討を加えた.
非糖尿病群では,毛細血管最小外径と最大外径はともに頂回転が基底回転•中回転よりも大きく,毛細血管基底膜の平均の厚さは各回転間で差を認めなかった.血管条萎縮率は頂回転が基底回転•中回転よりも高率であった.糖尿病群では,
毛細血管最小外径は各回転間で差を認めず,最大外径に関しては中回転が基底回転よりも大きかった.毛細血管基底膜の平均の厚さは各回転間で差を認めず,血管条萎縮率は頂回転が基底回転•中回転よりも高率であった.これらを糖尿病群と非糖尿病群とで比較すると,最大外径での頂回転のみ糖尿病群の方が細かった.毛細血管基底膜の平均物の厚さは基底回転•頂回転•すべての回転を合計した場合において糖尿病群の方が非糖尿病群より有意に肥厚していた.血管条萎縮率は基底回転で糖尿病群の方が有意に萎縮しており,すべての回転を合計し比較した場合でも糖尿病群でより萎縮が高率であった.
年齢との相関については非糖尿病群の基底回転で加齢に伴い血管条萎縮率が上昇しており,毛細血管基底膜の平均の厚さも非糖尿病群の基底回転で加齢に伴い肥厚する傾向を認めた.糖尿病群での罹病期間•空腹時血糖値•HbAlc値との相
については,基底回転での血管条萎縮率と空腹時血糖値およびHbAlc値との間で正の相関を認めた.
今回得られた結果から血管条の萎縮は血管条毛細血管基底膜の内腔への肥厚がその一因となっており,これが糖尿病における難聴の成因の一つと考えられた.

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