日本細菌学雑誌
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総説
口腔レンサ球菌のアドヘジン
高橋 幸裕田代 有美子古西 清司
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2013 年 68 巻 2 号 p. 283-293

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抄録

口腔レンサ球菌は口腔常在菌叢において最も優勢な細菌群である。口腔バイオフィルムである歯垢を形成し,う蝕の原因や,歯周病原性細菌の定着の足がかりになっている。さらに,感染性心内膜炎など口腔以外の領域で発症する感染症の原因菌として歯学・医学領域において注目されている。これら細菌の宿主への定着には,これまでに報告されている数種のアドヘジン(付着因子)が重要な役割を果たしていると考えられている。特に,歯面のペリクルに存在する唾液ムチンへの口腔レンサ球菌の結合や赤血球凝集活性は,これらムチンあるいは赤血球をノイラミニダーゼで前処理することで消失するため,口腔レンサ球菌には宿主のシアル酸を認識するアドヘジン(シアル酸結合性アドヘジン)が存在することが示唆されていた。
我々は,歯垢形成の初期に歯面に定着するStreptococcus gordoniiのシアル酸結合性アドヘジンの分子生物学的解析を行っている。このアドヘジン(Hsa蛋白)をコードする遺伝子の解析の結果,Hsa蛋白(約203 kDa)は,N末端側より,シグナルペプチド(NR1),短いセリン繰り返し領域(SR1),非繰り返し領域(NR2),蛋白全体の75%以上を占める長いセリン繰り返し領域(SR2),およびC末端の細胞壁結合領域によって構成されていることが推定された。従って,Hsa蛋白は,宿主のシアル酸を認識する領域であるNR2が,“molecular stalk”の役割を果たすSR2を介して菌体表層に繋がれている構造をしていることが示唆された。
本総説では,このアドヘジンの宿主レセプターの同定や感染性心内膜炎の動物実験の結果などの知見を交えて,口腔レンサ球菌のアドヘジンの機能とその病原性について概説する。

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